【コラム】第3回 運動を企業が取り入れることの意義 〜アクティブレスト®のエビデンス〜

労働者の休み時間の過ごし方として,職場のパソコンやスマートフォンでゲームやメールをする労働者が多数見受けられます。近年,「アクティブレスト®」,つまり休み時間に積極的に運動を取り入れた方が疲労回復につながり,作業効率が改善するという概念が提唱されています。私たちはこれまでに,アクティブレスト®の考えのもと,メタボリックシンドロームやロコモティブシンドロームの予防,運動実践のきっかけづくりを目的とした10分間でできる運動プログラムを企業に対して提案してきました。そこで,最終回では私たちがこれまでに企業で取り組んできた「アクティブレスト®」の概要とその効果について紹介します。

 

<正興電機製作所古賀事業所での取り組み>

 ホワイトカラーならびにブルーカラーの労働者130名を対象に,職場単位で無作為に運動介入を行う群と介入しない群に割り付けました。運動介入は週に3〜4回,昼休みに10分間の体操を職場単位でインストラクターの指導のもと実施し,介入期間は8週間としました。両群ともに介入前後に職場活性度(ワーク・エンゲイジメント),プレゼンティーズム(WFun)に関する調査を実施しました。8週後,ワーク・エンゲイジメントの「活力」,WFunは運動介入群で有意に改善し,WFunの改善は身体愁訴や疲労感の軽減,活力の向上と関連していました[1]。

  • プレゼンティーズム:出勤はしているが慢性疾患により生産性が低下した状態。

 

<西日本高速道路株式会社での取り組み>

ホワイトカラーの労働者30名を対象に,職場単位で無作為に運動介入を行う群と介入しない群に割り付けました。運動介入は週に3回,昼休みに10分間の体操を職場単位でDVDを見ながら実施し,介入期間は10週間としました。両群ともに介入前後に睡眠状態(ピッツバーグ睡眠質問票),プレゼンティーズム(WFun)に関する調査を実施しました。10週後,WFun,入眠潜時,睡眠の質,睡眠障害は運動介入群で有意に改善し,WFunの改善は睡眠の質の改善と関連していました。

 

<第一交通産業株式会社での取り組み>

 慢性腰痛を有する男性タクシー運転手32名を対象に,事業所単位で運動介入を行う群と介入しない群に割り付けました。運動介入は10分間の体操を出勤日の就業前後または休み時間に対象者の実施可能な時間にDVDを見ながら行い,介入期間は10週間としました。両群ともに介入前後に運動機能測定(脚筋力[30秒椅子立ち上がりテスト],バランス能力[閉眼片脚立ち],柔軟性[長座体前屈]),腰下肢症状の程度(VAS),腰痛の重症度(JOA-BPEQスコア)に関する調査を実施しました。10週後,脚筋力,柔軟性,腰痛の程度は運動介入群で有意に改善し,運動参加回数が多かったものほど柔軟性の改善が大きいことが示されました。

 

これらの結果より,ホワイトカラーならびにブルーカラーの労働者が昼休みに職場単位で運動を行うことは,職場活性度の向上,プレゼンティーズムや睡眠の質の改善,慢性腰痛を有するタクシー運転手の腰痛軽減に有効であることが明らかとなりました。アクティブレスト®の効果の差異には,対象者特性や職種,運動介入方法などの要因が影響していると考えられるため,今後,さらに他職種による検討や介入方法の工夫が必要かもしれません。

 

福岡大学スポーツ科学部

運動生理学研究室

道下竜馬

 

<出典>

[1]Michishita R, et al. J Occup Environ Med 2017; 59: 1140-1147.

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