【コラム】第3回 自分の感受性くらい ~ 当たり前の向こうに 

カナダの西海岸にあるバンクーバーで暮らし始めてひと月が経ちました。バンクーバーは日本の最北端の択捉島よりさらに北にありますが、西岸海洋性気候に属していて、年間を通じて比較的温暖です。夏の爽やかな時期を除けば、雨が降る日も多いのですが、降水量は日本より少ないので、アウトドアを楽しむには絶好の都市です。

 

グリーンシティを標榜しているバンクーバーには、気候変動がもたらす危機に敏感な市民、公共交通整備や自転車フレンドリーなまちづくりに賛同する市民が多数います。ダウンタウンから歩いていけるスタンレーパークは、市民にとって日常の散歩やジョギング、バイクライディングのホームベースです。コロナ禍の前は、連日大型クルーズ船が入港していたイングリッシュベイを眺める都市公園は、世界でも指折りの暮らしやすいまちに代えがたい潤いを与え、まちのウェルビーイングを支えています。

 

我が家の愛犬デイジーとスタンレーパークでの散歩で出会うのは、フレンチブルドッグやパグを連れて歩く愛犬家だけでなく、自転車の荷台に犬を載せて走るサイクリストや、スケートボーダー、タンデムの自転車に乗るカップルやファミリー。交わされる言語は、英語だけでなくフランス語、中国語、韓国語、日本語、よくわからない中東らしい響きも聞こえてきます。多様な場所には多様性という言葉は不要なのかもしれないほどです。

 

新しい年度が始まる日本では、入社式や入学式が執り行われるので、4月に降る雨は恨めしくなるものです。一方で、芽吹く樹々や草花にとっては恵みの雨。日々の暮らしの中に対立する恵みを享受できる幸せは、当たり前ではありません。アメリカのカリフォルニア州南部は、冬の間に雨が降らなかったので、今年の夏は厳しい水不足に陥ることが懸念されています。

 

私も福岡に引っ越してすぐに節水規制が始まり、毎日お風呂に入れなかったことを忘れそうになりますが、福岡市のウェブサイトのトップページにはその日現在の貯水率が表示されているほど、水資源確保には苦労してきた都市でした。福岡市の貯水率の平年値は72.7%ですが、4月5日現在は57.4%です。もちろん、単に量があればいいだけではなく、水の質も重要なので、大気の清らかさにも注目せざるを得ません。

 

あまりにも当たり前の水でさえ、当たり前ではなくなるかもしれないという現実を想定できるかどうか。日々接する当たり前を疑ってみることも、感受性を磨くひとつです。コロナがくれた自己鍛錬の日々。そう、自分の感受性くらい、自分で磨きたい。

 

 

松田 美幸

ISIT 特別研究員

 

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