2021.12.10
2020年に発生した新型コロナウイルスの世界的な流行は、社会に大きな変化をもたらしました。感染拡大防止策として推奨される3密の回避は、交流の機会やコミュニケーションのあり方にも影響を与えました。そのような中、新型コロナの流行は私たちの働き方にも大きな影響を与えました。在宅勤務は、その象徴ではないでしょうか。
従来、在宅勤務は、ワークライフバランスの向上や長時間労働の防止策として推奨されてきました。しかしながら、新型コロナウイルスが流行する以前は、実際に在宅勤務の経験がある人は1割未満とされています。一方、新型コロナウイルスが流行した2020年以降では、働く人の約5割以上が在宅勤務を経験したとの報告があります。
在宅勤務では、通勤時間から解放されることにより、生活に使える時間(家族と過ごす時間、趣味の時間など)や睡眠時間が増えるという報告があります。さらに、健康上の理由や、育児、介護のため、通勤しながらの就労に困難を抱える人の就労を可能にすることも期待されています。一方で、在宅勤務ではコミュニケーションの課題、上司や同僚などの職場からの支援が受け難い、労働者の悩みや健康上の問題が気づかれにくい、仕事量や労働時間が管理されにくいといった不利益も指摘されていました。
新型コロナウイルスの流行以前と流行後の在宅勤務での大きな違いは、経験した人の人数だけでなく、在宅勤務の嗜好とのミスマッチの存在です。新型コロナウイルス流行以前の在宅勤務は、あくまで、在宅勤務をしたい人が選択する働き方でした。一方、新型コロナウイルス流行下では個人の嗜好とは関係なく在宅勤務の導入が進みました。これによって、在宅勤務と個人の嗜好のミスマッチという問題が初めて発生するに至りました。
次回は、在宅勤務で気を付けたい健康管理や働き方について紹介していきます。第2回では、在宅勤務の際に気を付けたい作業環境を、生産性や腰痛の観点から紹介します。第3回では、在宅勤務に伴うメンタルヘルスの問題や食生活の変化、アルコールとの付き合い方について紹介します。
産業医科大学 産業生態科学研究所 環境疫学研究室 教授
藤野 善久