2022.12.10
近年、わが国では少子高齢化が急速に進行し、総人口も労働力人口も減少していますので、以前よりずっと女性の社会進出が進んで共働きも当たり前、女性の起業家も増えています。さらに、性別による役割分担などの固定観念にとらわれず、誰もが平等で公平に行動できるようにする、ジェンダーフリーの考えが浸透してきました。
しかしながら、男性と女性には生物学的に大きな違いがあり、生殖(Reproduction:再生)生理学的な意味合いからすれば、親から子へと世代を繋ぐためにはその違いが必須です。多くの動物種に含まれるヒトには、必ず尽きる「個のいのち」と、世代を繋ぐことで維持される「種のいのち」があるのです。種が消滅すれば個は存在しません。この大原則は昔から変わりませんが、わが国では個人の寿命は延びていますが、未来を担う子供の数は激減している、それが少子高齢化なのです。
私は「団塊の世代」(昭和22~24年)の生まれですが、この3年間に毎年270万人が出生し、約800万人の人口の集団が誕生しました。ところが現在では、2019年から年間出生数は80万人台にまで減少し、少数の若者が多くの老人を支えなければならない超高齢社会が到来しました。少子化の背景には、未婚率の増加や晩婚化がありますが、結婚しても子供を持たない夫婦も増えています。価値観の多様化や経済的な理由も大きいと思いますが、根本的には男女ともに性差と世代を繋ぐ意味の理解不足が関係していると感じています。
私は産婦人科の医師ですが、毎月定期的に生じる排卵や月経など、自分の心身の変化の背景を理解していない女性の多さに危惧を抱いてきました。これは、わが国の幼少時からの教育に問題があるのかもしれません。男女共に、妊娠・出産・育児における双方の性の違いを医学的かつ客観的に理解し、改めて「種のいのち」や「父性と母性」の意義に思いを馳せる必要があると考えています。
そこで、まずは染色体から。
性別は性染色体で決まります。ヒトには23対、46本の染色体があり、44本の常染色体(以下常)が多くの遺伝情報を伝え、X、Yの性染色体(以下性)で性が決定されます。女性は常44本と性X・X、男性はそれぞれ44本とX・Yです。受精は卵子と精子の結合によって成立しますが、配偶子(卵子、精子)の染色体は半分に減数分裂していて、卵子が常22本と性X、精子が常22本と性はXかY。つまり、Xを持った精子とYを持った精子のどちらが偶然に卵子に結合するかで生まれる赤ちゃんの性が決定されるのです。
Y染色体には精巣決定遺伝子が存在し、形成された精巣から分泌される男性ホルモン(テストステロン)により男性(性染色体XY)に分化し、一方、X精子の受精卵からは卵巣が形成され、分泌される女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)によって女性(XX)に分化します。この過程が基本的な性差の始まりです。XはYよりはるかに大きく重く、遺伝情報も多いと思われますので、女性は長命で概して強いのも納得できます。
一般社団法人福岡県社会保険医療協会
理事長
特定非営利法人福岡市レクリエーション協会
会長
福岡大学医学部 名誉教授
瓦林達比古