【コラム】第3回 私と運動の関わり ③

 運動の降圧効果とその機序は確認出来たが、運動を中止すると血圧は1ケ月後には元に戻った(本山ら1998)。つまり運動も薬同様に降圧はするが、高血圧の根絶も出来ていなかったので原因療法ではなかった。

 私は本態性高血圧の研究にRA系から入門したが、RA系は実は先祖が3~4億年前に海から陸上の無塩生活に移る際、陸上での食塩不足を補う為の体内食塩リサイクル装置として天に授かった装置だった事を知って驚いた。自然界の陸上動物達が今でも無塩下に正常血圧で生存出来ているのはRA系のお陰である。食塩過剰の現代人は全員RA系であり、食塩過剰の日本人は運動の脱塩利尿効果も白人より大きい(清永ら1985)。

 高血圧と反対の本態性低血圧のRA系(今川ら1982)には一寸驚いたが、恐らく多くの食塩貯留性遺伝子が進化の過程で退化し、その分をRA系が代償していると解釈される。

 要するに人の血圧は食塩貯留性遺伝子の土台の上に、各人各様の生活習慣が重なり千差万別となる。生存上必須の栄養素(塩・糖・脂など)は美味で摂取を誘うが、天意を無視して美味を貪る者には媚薬となり生活習慣病を招く。反対に食塩摂取が少ない程、血圧は低いし(Stamler 1988)、長寿する(米国生命保険400万人集計/1935-1954)。人はアルコール分解酵素の強弱で上戸~下戸に生まれるが、アルコール無しには誰も酔わない、と同様に無塩下では本態性高血圧も無い(Oliverら1975)。私は定年退職までの研究成果を歴史にも照らして “本態性高血圧の元凶=食塩”との結論に到達した。以来 ①に減塩、②に運動、③に薬、と謳歌している。

 運動の降圧効果は対症療法でも、副作用では降圧薬とは正反対に強力な有益効果が広範囲に及んでいる。

先ず動脈硬化関係では脂質異常の改善(Brairら1992)・特にHDL(善玉コレステロール)(佐々木ら1998)、インスリン感受性低下の改善(Schwartzら1991)・糖尿病の予防・加齢昇圧度(沢田ら2003)、肥満・内臓脂肪の優先(Schwartzら1991)等々。その様な動脈硬化の過程をhomocysteine(=動脈硬化促進作用)が生化学的に手伝うが、運動はそれを下流のhomocysteine(→動脈硬化)に変え、更に下流でタウリン(脱塩利尿作用)を齎す (田辺ら1989)。

 動脈硬化予防以外の効果も多岐に渡り、特に癌の予防効果にはまさかと驚いた(沢田ら、2003)。認知症も或る程度予防する報告(Laurinら2001)が相次いでいる。胆石症でも著明な予防結果が全米ナースの統計で示されたし(Leitzmannら1999)、一般高齢者の余命すら3倍も伸ばした(Hakimら1998)。以上は私の古い情報で申し訳ないが、他にも世界中で益々多くの朗報が溢れている。 

 ところで私の運動は水泳に始まったが、故 木原光知子さん(元オリンピック選手)のコーチでクロ―ルが得意になった。職務合間のプールから、時には内外の海(石垣島・ヌメア等)での石鯛子魚との戯れなど生涯忘れ難い。年間目標365km、実績は半分以下の連続に重大決心し、辛うじて目標を2回は達成出来たが、これはやはり無謀だった。水泳(特にスキューバダイビング)は浮力で骨を脆くする事を気にしていた矢先、67歳時に脚立から転落して初骨折の激痛体験に「やっぱり!」と、同時に「やっと!」と頷かされた(新米医師の頃から患者の苦痛を実体験しておきたい為の骨折願望が、定年も近い頃にやっと!)。翌68才からは歩行や登山に転じて日本100名山の半分を84才(2013年)の御嶽山踏破で終えた。1年後だったら噴火と共に天まで登り詰めたかも? 以後は細々乍ら水泳やエルゴメーターで人生の最終コースをうろついている 。

  「健康の維持には努力を惜しんではならない。安静時には生体の熱は衰え体内に余分な物が生じる。運動で熱が燃焼し余分な物すべてが放出される。最高の質と量の食事も運動の効果には敵わない。運動は多くの間違った健康法の弊害を排除してくれる」 (ヒポクラテス420BC)。     

国際高血圧学会名誉会長

福岡大学医学部名誉教授

九州大学医学部卒業

荒川規矩男

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