2026.10.05

田村大氏
神奈川県生まれ。幼少期を福岡県・小倉で過ごす。
東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。新卒で博報堂に入社後、デジタル社会の研究・事業開発等を経て、株式会社リ・パブリックを設立。欧米・東アジアのクリエイティブ人脈を背景に、国内外で産官学民を横断した社会変革・市場創造のプロジェクトを推進している。2014年、福岡に移住し、九州を中心とした活動に移行。2019年、UNAラボラトリーズを共同創業、筑後を中心に、ものづくりの新たな可能性を拓くべく、多様なステークホルダーを交えたエコシステム形成に取り組んでいる。現在、北陸先端科学技術大学院大学にて客員教授を兼任。
伝統産業には避けがたい現実があります。和服の需要は激減し、和室のある家も急速に減りました。久留米絣が長年培ってきた市場は、静かに縮んでいます。その流れが反転する道筋は、今も見えていません。
だからこそ、ここ5年ほどテキスタイルの可能性を別の角度から探る活動を続けてきました。「I/KAT — 久留米絣の可能性展」は、複雑な絣の工程を解きほぐし、布を織るという行為の外側にある多様な造形を問い直す試みです。藍染めに偏りがちな天然染色の世界に、土地の植物や廃材を活かした新たな色を持ち込む「Colors of Kurume」というラボ活動も立ち上げました。産地を、ものを作る場所から、文化を創造し発信する場所へと変えていくための積み重ねです。
昨年9月、こういった活動を束ねる協議会が、テキスタイルの生産者を中心に発足しました。外から関わってきた僕たちではなく、地元の事業者が中心になって旗を立てたことに、大きな意味があります。協議会のウェブサイト「筑後産地の図と地」も立ち上がりました。産地の技術や素材を、クリエイターの視点から再解釈するプラットフォームです。主に海外への発信を念頭に置いています。
「図と地」という言葉は、デザインや知覚心理学でよく使われます。何かを「図」として見るとき、それを際立たせているのは目に見えない「地」の存在です。産地の技術も、職人の時間も、土地の植物も、長い間「地」として存在してきました。それを「図=織物」の前景として提示することで、新たな表現や用途が生まれてくることを期待しています。
移住から12年余り。長女はすっかり福岡の子になり、福岡で生まれた長男は八女の骨董屋に入り浸っています。妻はUNAラボラトリーズの経営者として、工芸とツーリズムをつなぐ現場にいます。僕は、クリエイターや行政や産地の人々の間を行き来しながら、この土地の文化的なポテンシャルをかたちにし続けています。
福岡を「文化貧弱都市」と呼んでいたあの頃の違和感は、今では懐かしいものです。文化は、最初からそこにありました。見えるかたちにする仕組みと、そこに関わる人間の意志が、少しだけ足りていなかっただけです。その仕組みを少しずつ、産地の担い手たちと一緒に作ってきた。それが、僕たち家族の福岡での12年間でした。

筑後産地の図と地HP引用