コラム:第3回「禁煙のすすめ」~加熱式たばこの健康影響~

産業医科大学 産業生態科学研究所 教授 大和 浩、講師 姜 英

加熱式タバコが大手タバコメーカーから販売され、家族から煙たがれている人
やタバコはやめられないが健康障害を少しでも減らしたい、という喫煙者に
爆発的に売れています。
その使用者が増えるにつれ、「あれって、どうなの?」と訊かれる機会が
増えてきました。

皆さんも、コンビニエンスストアの店頭に置いてあるリーフレットを持ち
帰って目を通してみて下さい。
メーカーが喫煙者の心理を上手く突いていることが分かります。

リーフレットの前半には、「室内の空気を汚さない」を強調するために、
家族が居るリビングで使用している写真が使われています。
しかし、これは明らかな虚偽広告です。
筆者のホームページに3種類の加熱式タバコを使用した時の室内空気の
汚染状況を二次元レーザー光線で可視化しています。
ぜひ、この動画を加熱式タバコの使用者に見せてあげて下さい。
リーフレットの後半は、わざわざ棒グラフを使いながら
「有害成分を90%低減」が強調しています。
それらの構造から、3種類の加熱式タバコの有害性について解説します。

2015年から販売が開始され、2018年4月時点で最も使用者が多いのは
フィリップモリス社のiQOS(アイコス)です(2017年3月にバージョン
アップでIQOSに名称変更)。
タバコの葉を粉末にして保湿剤、防腐剤、成形剤等を加えてシート状
に押し固め、約11ミリの幅に切りそろえて巻紙に充填し、その中央に
金属ブレードを挿入して内側から約300℃に加熱します。
ニコチンの沸点は247℃ですから喫煙者が満足する濃度のニコチンが
揮発します。
燃焼する温度(約500℃)以下であるため、確かにタールと一酸化炭素
の発生は抑えられます。
しかし、iQOSを使用する本人が肺に吸引する有害物質を分析した
国立保健医療科学院の研究班の論文により、濃度は低いものの発がん性
のあるアルデヒド類をはじめ、紙巻きタバコから発生する有害物質は
ほぼすべて含まれていることが分かりました
(Bekki K, et al. J UOEH. 39(3), 201-207, 2017)。

ブリティッシュ・アメリカン・タバコのglo(グロー)は、タバコの葉を
詰めた巻紙の外側から約240℃に加熱する構造が似ているので、
アルデヒド類などの発がん性物質を吸引するのはiQOSと同様です。

日本たばこ産業のPloom TECH(プルームテック)はアルコール系の有機溶剤
を低温(約40℃)で加熱して霧化させた後にタバコの葉の粉末を充填した
カプセルを通過させて吸引するので、基本構造は電子タバコです。
ニコチンの量が少ないため満足感が得られにくいようです。
吸引する有害物質は前2者よりもさらに少ないですが、薄いニコチンを
吸引するので、逆に、有機溶剤を深く吸引することの健康被害が懸念されます。

参照:厚生労働省「加熱式たばこにおける科学的知見」

販売からの期間が短いためその健康影響はほとんど分かっていませんが、
2016年、iQOSを1日40本使用していた男性が呼吸困難となり、レントゲン
で両肺野が

真っ白、気管支肺胞洗浄により急性好酸球性肺炎と診断された
症例が報告されました。
また、2017年、ラットを用いた実験ですが血管内皮の障害が発生する
ことも報告されています。
今後、その有害性は徐々に明らかになることでしょう。

図は紙巻きタバコの喫煙本数を横軸に、縦軸に心疾患のリスクを
グラフ化したものです。
1日の喫煙本数が5本と少なくても20本喫煙する人のリスクと大差が
ないことが分かります。
受動喫煙でさえ心筋梗塞のリスクは1.3倍になるぐらいですから、
喫煙による健康障害は少ない曝露から現れることが分かります。

本来、これらの製品は人体に無害であることが証明されない限り
販売は禁止すべきですが、それが判明するまでの間は、メーカーの
リーフレットに薄い文字で小さく書かれている警告
「有害性成分の量を約90%カット」の表現は、
「本製品の健康に及ぼす悪影響が他製品と比べて小さいことを意味するものではありません」
「リスクがないというわけではありません」
「タバコ関連の健康リスクを軽減させる一番の方法は紙巻タバコも本製品も両方やめることです」
を示しながら、ニコチン依存症からの脱出の手段として禁煙外来へ行くことを勧めて下さい。

それらの製品を使っている人達は「少しでも健康障害を免れたい」
という気持ちを持っている禁煙予備群ですから!

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