【コラム】第2回 運動を企業が取り入れることの意義 〜職域における運動介入研究〜

近年,企業が従業員の健康に配慮することによって,経営面においても大きな成果が期待できるとの基盤に立ち,健康管理を経営的視点から考えて戦略的に実践する「健康経営」の概念が普及しています。従業員の健康管理・健康づくりの推進は,単に医療費の節減のみならず,生産性や従業員の創造性,企業イメージの向上等の効果が得られ,かつ企業におけるリスクマネジメントとしても重要であることから,多くの企業で運動や食事指導,メンタルヘルス不調,喫煙対策など,労働者の健康づくりに対する様々な取り組みが実践されています。運動に関する主な取り組みとして,2019年度に健康経営銘柄を取得した企業のうち,塩野義製薬株式会社では約4,000名以上の従業員が参加するウォーキングイベントを開催するとともに,スニーカー通勤の推奨を行い,歩くことの習慣化とさらなる健康保持増進を図っています。花王株式会社では,社員食堂での「スマート和食®」の提供,歩数計「ホコタッチ」による歩行推奨,「内臓脂肪測定会」による健康増進プログラムなど,楽しみながら健康になる取り組みを導入しています。JFEホールディングス株式会社では,自社考案の「アクティブ体操」を健康管理に活用し,体操の実践により筋骨格系疾患による休業や転倒災害発生件数が減少するなどの効果が表れています[2]。

では,これまでに職域で行われた運動介入研究には,どのようなエビデンスがあるのでしょうか? 以下,職域で実践された運動介入研究の結果の一部を紹介します。

 

<ステップ運動を主体とした生活習慣修正によるメタボリックシンドロム改善効果>

福岡市役所で実施された研究では,男性職員79名を対象に無作為にステップ運動を主体とした生活習慣の修正を実施する群(介入群)と運動未実施群に分類し,8週前後に形態,血圧測定,血液生化学検査,運動負荷試験を実施しました。介入群にはステップ台を貸与し,1週あたり300分以上の運動を職場と自宅で実施してもらうように指導しました。8週間後,介入群で体重,腹囲,腹部脂肪面積,収縮期血圧,有酸素性作業能力の有意な改善が認められ,職域におけるステップ運動を主体とした生活習慣改善により労働者のメタボリックシンドロームの改善に有効であることが示されました[3]。

 

<座位行動パターン変容による血糖値改善効果>

 オーストラリアで行われた研究では,過体重または肥満の中年男性19名を対象に仕事中の座位行動パターンの変化が血糖値に及ぼす影響について検証しました。低強度の歩行や簡単な体操,中〜高強度のレジスタンス運動を実施して座位行動を中断させた結果,運動強度に関わらず頻繁に座位を中断し,座位行動パターンを変えることで約24%の血糖値の低下を認めました[4]。この研究の結果から,頻繁に座位行動を中断することは労働者の座り過ぎ防止につながるとともに,生活習慣病の予防や改善にも貢献できると考えられます。

 このように,近年の「健康経営」の制度が追い風となり,最近では職域における運動介入研究の報告も多くみられるようになってきました。そこで,次回は我々がこれまでに企業で取り組んできた「アクティブレスト®」の概要とその効果について紹介します。

 

福岡大学スポーツ科学部

運動生理学研究室

道下竜馬

 

<出典>

[1]健康経営研究会. 健康経営とは. http://kenkokeiei.jp/whats

[2]経済産業省. 健康経営銘柄選定企業レポート.

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/meigara_report2019.pdf

[3]綾部誠也ほか. 臨床スポーツ医学 2011; 28: 1387-1391.

[4]Dunstan DW, et al. Diabetes Care 2012; 35: 976-983.

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